2018.08.03

飲食店開業支援

つくりてを訪ねて Vol.1 「有田焼」金善製陶所

1つの器との出会いが人生を変えた。直感を信じ 、遊び心を加えた商品作りは有田焼の新しい顔を見せている。窯元の楽しさや課題とこれからの展望をたずねました。

今や日本国内・和食だけでなく、フレンチなどで世界のトップシェフが使うまでに広がった有田焼。
有田焼の各窯元は伝統技術を大切にしながら現代に合わせた器を提案しています。
その中で今回は竹下雷太が「金善製陶所」を訪問。三代目・金ヶ江泰彦さんにお話をおうかがいしました。

70年近い歴史のある金善製陶所

竹下
金善製陶所さんに訪問させていただくのは今回で3回目になります。現在、ショールームを改装工事されているんですね。そんなお忙しい中でインタビュー受けていただきありがとうございます。今日はよろしくお願いします。
早速ですが金善製陶所の歴史をお聞かせください。

金ヶ江
実は初代は別のところに窯を構えたかったそうなんです。だけどその土地が手に入らず、この場所に金善製陶所を作ったんです。この場所は泥が多くて湿度があるせいで、真っ白に焼きたくても黄色がかったり、なかなか思うように焼けなかった。さんざん苦労したけどどうしてもできなくて…。

「じゃあそれを逆手にとってうちの特徴にしよう!」ってことで、そういう風合いの器を作るようになったんです。そうするとそれが他にはないうちだけの特徴になって、人気が出ちゃった(笑)

金善製陶所三代目・金ヶ江泰彦さん

竹下
金ヶ江さんは元々この仕事に就こうと思ってたんですか?

金ヶ江
普通の会社員になろうと思ってたんですよ。だけど、ある時に見た土物の器がすっごいかっこよくて。もうホント衝撃を受けて、こういう仕事もいいなと思った。それで「そんな器を作れるようになりたい!」と弟子入りしたんです。それが今では三代目を務めるように。
ひとつの器で人生がガラッと変わったんですよ。

竹下
今までに挫折を感じたことやターニングポイントになったことはありますか?

金ヶ江
時代もよかったから当時は結構売れてたんだけど、だんだん旅館向けなんかの営業用食器も売れなくなってきて。業績が下がってきた時期があったんです。それで、二代目はコストと時間のかかる手作りから脱却しようと、機械の導入を進めていった。もちろん今もその機械は使って作ってるけどね。

僕は遊びながらって言うと変だけど、いろんな器を作るのが好きだから、機械も使うけど手作りでも好きなように作り続けていた。そんな僕を見ても二代目は文句を言ったり反対することはなく、自由にやらせてくれたんです。だから僕は苦労とか挫折っていうのは正直あんまりなくて、楽しみながら今までやってきてますね。

竹下
商品作りのアイデアはどんなところから生まれるんですか?

金ヶ江
新しい商品作りは、生活の中で目にするものから「こんな形を器にしたら面白いかな」とヒントもらうこともある。なにより、とにかく色んな器を作ってみて「売れそうだな」と思ったものは周りに反対されても商品にしちゃう。勘みたいなものなのかな。

でもそれが結構売れるんですよ。
だから自分がイケるって思ったら周りに反対されても商品にしますね。

新しい器を作るとき、社員だけじゃなく、産地問屋さんからも「売れないよ」と反対されたりすることある。でも自分で「いい!」と思った器は出しちゃう(笑)

黒サビ絞りシリーズ

竹下
いまショールームは改装の真っ最中ですが、改装しようと思われた理由は何ですか?

金ヶ江
古くていろんなとこに不具合とか壊れたとこが出てきてて「いっそのこと改装しちゃおう!」って。少しきれいにすればお客さんが見に来てくれて、器が売れるかなって(笑)
労働環境を良くする一環という意味合いもありますね。

竹下
この仕事で大変だと思うことや嬉しいのはどんなときですか?

金ヶ江
今は職人になる人が減っていますね。人材確保が大変です。昔と比べたら窯も少なくなってるし、若い人が減って高齢の職人ばかりになってる。これからは大きくしていくっていうよりは、小さく続けていくっていう感じかなと思っています。

嬉しいのは、やっぱり有名なお店とか、TVとか雑誌でお店が紹介されてるときに使われてるのがウチの食器だったりすると嬉しいですよね。お店で紹介されて、家庭用にも売ってもらえてると嬉しいですね。

伝統的な呉須を用いた絵付けの器

僕は子どもが親の仕事を誇れるようにしたいなって思ってるんですよ。僕たちの仕事ってなかなか表に出ないじゃないですか。今は少しずつ紹介されるようになってきたけど、普通は窯元のことなんて知らない人が多い。
だから東京の有名なお店で使ってもらったりすれば嬉しいね。若者が行くようなお店や商業施設とかで自分の親が作ってるのが出てきたら「おっ、親父の作ってる器だ」って誇りになるじゃない。

鮮やかな色が目を引くカラフルな器

最近は子どもも後を継ぎたいってことを言うようになった。けど、そんな簡単なものじゃないしね。それでも嬉しいね。

竹下
今後のビジョンは?

金ヶ江
ビジョンなんてそんな大げさなものはないかな(笑)
さっきも話したように、職人は減ってるんだけど、その中でもいまいる人やこれからやりたいって人を大切にしながら、コンパクトに続けていくってことかな。こぢんまりだけど、しっかりした器を作っていきたい。それを飲食店でも家庭でも気に入って使ってもらえたら嬉しいよね。

あとはこれからも僕自身が楽しみながら続けていくことかな。

 

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日常の中からインスピレーションを受けて器づくりに活かしていたり、鋳込みの型は10㎏以上もするものを片手で持って、もう片方で外すなど非常に体力を要するものを高齢の職人さんがやっていたり、絵付けなどの作業も一つ一つ手作業で丁寧に時間を掛けてやっていました。

職人の高齢化や人材確保、後継者の問題など課題は感じているものの、飾ることなく終始笑顔で話していただきました。

私たちもインタビューを通じてつくり手の想いを感じることができ、双方の意見、情報を伝え、つくり手とつかい手を繋ぐ役割を担っていきたいと思います。