2018.09.06
京橋白木の取り組み
つくりてを訪ねて Vol.2「美濃焼」 (有)ヤマ兵製陶所 兵山窯
量産型から手間をかけた付加価値の高い少量生産へ。これからの器づくりへの想いをうかがいました。
美濃焼と呼ばれ日本一の陶磁器産地である岐阜県の東濃地域。
この地域には少量生産の家族経営から量産型メーカーまで多くの窯元が点在している。
今回は家族経営ながら、小規模だからこそできる柔軟なモノづくりで人気を誇る「ヤマ兵製陶所」に竹下雷太と川口純一が訪問。羽柴兵哉さんにお話をうかがいました。
ヤマ兵製陶所 家族経営ながら一年を通して全国から注文が殺到する窯元
(有)ヤマ兵製陶所 兵山窯 三代目 羽柴兵哉 様
竹下 兵山窯さんにおうかがいするのは4回目になりますね。このような形式で改めてお話しできるのがとても楽しみにしてお邪魔しました。まずは、こちらの窯はどのような経緯で始められたか教えていただけますか。
羽柴 元々は陶(すえ)町という場所で窯元をしていました。そこから数えると十何代目となるのですが、現在の場所である駄知に移り、ヤマ兵という屋号になってからは父である羽柴兵衛が二代目であり、私が三代目になります。
一昔前は従業員も何名かいましたが、今は親族中心で陶器制作から出荷まで行っています。
竹下 初めて訪問した際に、丸皿を型で取ってもただの丸で終わらせず、少し変形させているのは初めて拝見して
とても驚きました。個人的にも好きな窯元さんでプライベートでも使用させて頂いていますが、こういった商品は昔から作られているのですか?
羽柴 昔は磁器の商品がほとんどでした。今の二代目が徐々に土物を取り入れるようになりました。趣味もあったのかもしれませんが手間のかかる商品が多くなってきましたね。
竹下 それではここ最近でかなりものづくりが変わってきたのですね。
羽柴 そうですね。私の祖父の代からは大きく変わったと思います。
昔は作れば売れるという時代だった事もあり、大量生産していました。ですがこのままでは駄目だと思ったのでしょう。手間暇かけて付加価値を付けた商品に変えていきました。
川口 お客さまの層も変わりましたか?
羽柴 業務用もありますが、以前に比べると雑貨屋さん向けが多くなってきています。というのもお客さまから色々要望をもらうと何でも受けちゃうんですよね(笑)
実際、無理だと思うような要望でもやってみると作れたりします。そうして納めている間に雑貨屋さん向けも多くなってきました。
竹下 新しい商品を思い付くインスピレーションはありますか?
羽柴 基本は男衆で行っています。思い付いて、つくってみてダメだったりよかったり、と試行錯誤しながら商品にしていきますね。
食事に行ってこういうお皿がいいなと思い付いたりもします。今だとinstagramなどのSNSを元にヒントにすることもありますね。
川口 兵山窯さんでお勧めの商品やよく売れている商品を教えてください。
羽柴 ずっと出ている形状は多々あるのですが、粉引とかいらぎの2種類ですね。
竹下 ここまで細かく丁寧なかいらぎ製法は見たことがないです。
羽柴 他の窯元さんのことはわかりませんが、うちは【かいらぎ】技法は土はなんでもよくて型をつくり乾燥させ、かいらぎを塗り素焼きをします。
そして1回サビに付けて洗い流すと細かい網目にサビが残るんです。
洗い流してサビを落とすというやり方はあまりしない製法かも知れません。
川口 私は初めてかいらぎという技法を知りましたが、とても細かく綺麗だなと思いました。
料理が盛り付けられるともっと映えるのだろうなと感じます。
ところで通常どのくらいの出荷があるのでしょうか?
羽柴 週に1回、窯を稼働させているのですが商品の大きさにもよりますが、平均で1000個以上は出ていると思います。
竹下 ご家族で経営していますよね、私たちも兄弟で経営しているんです。家族経営で大変なことってありますか?
羽柴 父がいるのでそこまで大変だと思ったことはありませんが、男兄弟なのであまりしゃべらないですね(笑)ぶつかり合ったりもしないですし。
弟は東京で働いていた時期もありましたが、私は最初からこちらで働いています。自分からやりたいと考えていたわけではなかったのですが、跡を継ぐものだと漠然と思っていて現在に至りますね。
竹下 飲食店さんは実際に窯元さんに来て商品に触れたり、制作現場を見たりする機会が少ないと思います。私たちのメディアon the tableを通して、窯元さんのこだわりや魅力をしっかりと伝えて行きたいと思っています。
窯元として、使い手である飲食店さまに伝えたい事はありますか?
羽柴 私たちがつくっている商品の中でも特に土物は割れやすいし、傷つきやすく、業務用としては使い勝手が悪いと思います、その分割れにくい磁器では出せない風合いがあります。
そういった知識がちゃんと伝えたいです。
基本的な事ですが磁器と土物の違いとか。
竹下 正直、そういった点は私達も伝えきれていない部分が多いと感じることがあります。
現場ではアルバイトスタッフも多くて器に関する知識の無い方も触れています。
見た目だけにとらわれているオーナーの方も中にはいらっしゃって、実際使うお皿はそれでいいのだろうかと思う時もあります。
羽柴 料理の方ばかりうまいね、いいねと言っているシーンはよく見ますが、お皿が良いね素敵だねとか言っているシーンにはあまり出会ったことがなくそれは残念に思います。
興味がないんだなと、器をつくっている側から見ていると感じてしまいます。
せっかくいい器が出てるのに気づかれることもなく残念だなと思います。
竹下 おっしゃる通りです。
人間は味覚、視覚、嗅覚など五感で美味しさを判断するので、器が変わるだけで、同じ料理でも映り方や感じ方が全く変わります。
私達も体験しているので、そこをもっと飲食店様へと伝えていかなければなと感じています。
川口 ヤマ兵製陶所さんのビジョンとは何でしょうか?
羽柴 今は目の前のことで頭が一杯なのですが、興味を持ってもらえるような商品を多くつくっていきたいなという思いはあります。只々、商品を作るだけではなく多くの人の目に留まる商品を製作したいですね。
川口 インスタグラムでも、料理と器も込みでかわいい、映えるという傾向があります。私も一つ一つのお皿に注目していきます。
竹下 以前はとにかく値段ありきのオファーが多かったのですが、少しずつ変わってきていますね。
私のお客さまにもヤマ兵さんの器を納入させていただいたとき、オーナーさんから「器で料理の見え方が全然違うんだね」と喜んでいただきました。
そちらの店舗のSNSでは、お皿に対してコメントやいいねをもらうことが増えたそうです。
羽柴 そうなんですか。そういう声が聴けるのが一番嬉しいですね。
竹下 「つくりて」とつかいてを繋いでいけるように私たちも取り組んでいきます。
今回は貴重なお時間を頂きましてありがとうございました。
とても楽しい時間でした。
三代目、羽柴兵哉さんは物静かではありますが、いいモノをつくろうとする気持ちを内に秘めている印象でした。お話をうかがう前は【職人】というイメージが強かったですが、お客さまのニーズに応えようとする真摯な姿勢は私達も本当のプロ意識を見習ってより良いサービスを提供していかなくてはいけないと思いました。
7月中旬、取材の当日に記録的な猛暑で兵山窯のある土岐市は40度を超えていました。
そんな中でものづくりに携わる「つくりて」。その想いをもっと「つかいて」に伝えていきたいと思います。