2018.12.13

テーブルデザイン事業

《美濃焼》有限会社 作山窯|つくりてを訪ねて Vol.4

美しいうつわから、美味しい笑顔を。

「SAKUZAN」さんの素敵なホームページを、ぜひ一度みて見てください。美しいうつわに魅了されながら「なぜこんなにもたくさんのカラーバリエーションがあるのか?」など、たくさんお伺いしたいことが出てくるはずです。

髙井宣泰社長へのインタビューを通じて、「SAKUZAN」がこだわる美しさを紐解いていきます。

岐阜県土岐市駄知にて、1987年4月1日設立。「SAKUZAN」髙井 宣泰 社長

―今日はよろしくお願いいたします。まずは会社の歴史からお伺いしてもよろしいですか。

髙井 はじまりは、祖父がやっていた「山作(やまさく)陶器」。白い生地に転写する絵付け窯のほか、量産が行えるトンネル窯も保有していました。

父親の時代になり、トンネル窯を売って、オリジナルのほかに今でいうOEM※もやっていたんですが、父親の弟に窯を譲りました。私は当時アパレル業界で働いていたんですが、そのタイミングで地元に戻って「作山窯」を創業しました。

1987年4月1日、24歳の時のことです。「作山窯」という社名は、時間も無かったし、「山作(やまさく)」をひっくり返しただけなんです(笑)

※OEM=他社ブランドの製品を製造すること(委託制作)

―そうだったんですね(笑)就職されていたのになぜ、後を継ごうと思われたのですか?

髙井 当時は家族経営が抱える様々な問題もあって、「窯はやりたくない!」と自分で就職を見つけて飛びだしたんですが、窯を手放した親父の涙をみて、戻ろうと思いましたね。

30歳までなら転職もできるだろうと考え、5年間は一生懸命やろうと。気が付いたら30周年を迎えていますね。

―ある種の覚悟を感じますね。後継されて一番大変だったことは何ですか。

髙井 そうですね。覚悟というよりは、自分が長男だからというのが大きいですね。

大学でデザインを勉強していたので、少しばかり自信もありました。伝統ある美濃焼だけれど、自分らしさを表現したくて、エッジの効いたものをつくってみたのですが、とにかく大変でした。

小さいころから見てきたものづくりですが、細かいことはわからないですし、世の中に受け入れてもらうのに、かなり時間がかかりました。そんな中、祖父・父親の時代からお世話になっている方々からのご指導やご支援のお陰で、今があります。

―そうだったのですね。では先代から受け継ぎ大切にしていること、またあえて変えたことがあれば教えてください。

髙井 そうですね。代々人を大切にしていたのを見てきたので、人を大事にした生き方をしたいですね。

でも、去る者は追わず。自然に繋がれる人はまた繋がれるので、そのご縁を大事にしています。あえて変えたことで言えば、自社ブランド「SAKUZAN」を、きちんとブランディングしたことですね。

―きちんとブランディングする中で、ご自身や会社にとって、どのような変化があったのですか?

髙井 父親が叔父に会社を渡してから、逆にハングリーになって、OEM(下請け)脱却を図り、今では、自社ブランドのシェアが8~9割になりました。やればやるだけ、お金も人脈も含め、得るものは多かったですし、仕事が楽しくなっていきました。

そこから、東京に行きたいという気持ちが膨らむようになり、東京にクライアントを作るのが早い!と考え、東京進出を図りました。

―チャレンジですね!東京進出することによって何か変化や感じたことはありましたか。

髙井 全然、世界が違っていました。今でも思いますが、産業自体・・・商売としての考え方・スピード感だったり、東京と比べると10年は遅れていると感じました。

―デザイン自体にも遅れていると感じたということでしょうか。

髙井 それも感じていましたね。毎週末に父親と一緒に京都や丹波、信楽焼などを車で見てまわって、当時の商品も試行錯誤しました。30歳過ぎたときに初めて、飛び込みで「どうしてもおいてほしい」と商品を見てもらったのですが、その中で最初に置いてくださったのがIDEAさんでした。

初めは全く売れなかったんですが、そのうちポツポツ売れるようになったんです。でも、その時は自分でデザインしたものが3割くらいで、まだまだOEMの商品が多くて、7割くらいの感じでしたね。

―どのように今の自社ブランド「SAKUZAN」のシェアを広げていったのですか。戦略などがあれば教えてください。

髙井 ブランドの値段がきちんとつけられるように、とにかくつくりたいものに力を入れました。そうすると、どんどん引き出しが増えて、商品のバリエーションが多くなり、工場にも流れができて、生産性も上がりました。とにかく、それを積み重ねていくうちに、結果的に8割くらいにシェアが広がりました

それでも、産地問屋も元気がなくなっていく中、今度は価格競争が始まり、掛け率勝負になっていったんですね。物価は上がっているのに、メーカーの値段だけどんどん下がっていく一方でした。そこで「どうせ潰れるんだったらブランディングして、表に出よう!」と思って挑戦できたのが、良かったのかな。

今でも、毎年3月に東京での展示会で新作を発表しているのですが、幸い早い段階から、お客さまや百貨店の方にはブランドを知っていただけていたので、「やっと出てきたか」といった感じで受け入れていただけた。流通として自然な流れを作り出すことができたと思います。

お取引先さまにお渡ししているカタログ

―ブランディングし、東京に進出したことがシェアを広げるきっかけとなったのですね。

髙井 そうですね。トンネル窯(量産)では「5年10年は続いても先が見えない商売だな」と感じていたので、ブランディングするまでは、とにかく本当に大変な時期を乗り越えようと必死でした。

友達とコーヒーも飲みに行けないくらいだったので、ソファーとテレビを仕事場において、みんなうちに来てくれて、ほぼ溜まり場状態(笑)当時の彼女にも振られる始末でした。

―そこを乗り越えてきたからこそ、現在の「SAKUZAN」があるのですね。

髙井 だけど、産地では賛否両論。いろいろご意見をいただくこともありますよ。展示会なんかでも、商社さんが多く、メーカーは少数しか見かけませんし、その半分くらいは助成金が出ている場合が多いと思います。

だから、うちみたいな動きをするメーカーがたくさん出てくれば、産業自体がもっと盛り上がると思っていて。色々ご意見をいただきつつも「やれるところまでやろう、突き進んでいこう」と思っています。

―ここで、今までお伺いしてきた「SAKUZAN」の歴史から、今度は器に焦点を当ててお伺いさせていただきたいのですが。

髙井 はい。いいですよ、何でも聞いてください(笑)

―ホームページを拝見させていただく限り、かなりのカラーバリエーションがあるのですが、何かきっかけがあったのでしょうか。

髙井 デザインついては20年以上前からある形状で、カラーバリエーションも10年以上前から色々あったのですが、そもそもマットというのが、初めあまり受けが良くなかったんです。「業務用だったら艶がないとダメだよ」とかね。

今はこれだけインスタ映えっていわれているし、写真映りがいかに美しいかということも大事に考えてます。空間にどうモノが入っていくかということも考えるんですよ。

色を持てば持つほどリスクは大きいけど、逆に幅を持った中で商品開発ができ、30個・50個・100個からの、また少量でも発注できます。

カフェとかレストランでも、それぞれお店の色があるでしょう。お子さま連れが多いお店は明るめの色がいいとか、うちは少しモダンな方がいいとか。そこでカラーバリエーションがあることで、その雰囲気にあったチョイスができれば、幅が広がるじゃないですか。

―たくさんある窯元の中で、そこが「SAKUZAN」ならではの強みとなっているのですね。

髙井 そうですね。先程お話した展示会にお見えになるお客さまのなかでも、直接来て安く買おうとかではなく「自分の気にいった器がほしい!」というお客さまが多いので、ある程度のバリエーションを揃えて、お店のコンセプトにあわせて発注できるというのは、メリットだと思います。

どちらかというと、提案型のメーカーとして、オーダーでもお応えできるように準備しておくのもうちの強みですね。

素材を生かすというところでは、陶器のメーカーで良さである、素材(土)の風合い・質感、焼いたときに生まれる自然な景色を生かしながら、スタイリッシュに仕上げていくのを意識して、陶器でありながら、磁器の洋食器とも組み合わせて使えるようにも考えて作ってます。

ファッション感覚も大切に、いかにテーブルを華やかに美しく、料理と喧嘩しないようにするか。化学反応で少し変わるけど、それも風合い、食材と同じように自然の優しさを感じられるように・・・そんなことを意識しています。

―たくさんのカラーバリエーションに加え、シリーズ化もされていていますが、そこにも何か想いや戦略があるのですか?

髙井 流行はあまり追わず、どの組み合わせでもマッチングする色のトーンでもっていくっていうのは必ず考えていて、そうすると、だいたいあのカラーバリエーションになっていったんですよ。

―そうだったんですね。それぞれの美しい器に、かわいらしいネーミングがついていますが、由来は何だったんですか?

髙井 大きなくくりとして、毎日使ってもらいたいってことで「DAYS」。これから順番にシリーズ化していこうと思ってるんですが、その中の一つとして「SARA」がある。触ってサラサラしている皿だから「SARA」って名前。特に深い意味はないんですよ(笑)

―触り心地からだったんですか?

髙井 そうそう、それだけ(笑)

カラフルに食べましょう。「DAYS」シリーズの中の「SARA」

―業務用と一般家庭用とで、ニーズの違いについて、感じていることをおしえてください。

髙井 一般小売店向けは、客層に合わせて色の提案。飲食店には、業態やターゲット客層に合わせて提案しています。

まずは素材から言うと、うちは陶器メーカーで土モノなんですね。土モノの良さっていうのは、素材から生まれてくる風合とか、質感とか、焼いたときに生まれる景色みたいなものが自然な感じを醸し出します。それをスタイリッシュに作ってくのがうちの狙いで、従来の和食器の作りに囚われず、陶器でありながら、磁器の洋食器と組み合わせても使えるようなものを手がけていますからね。

一般の家庭でも、昔とは生活スタイルが変わってきていて、白木の板のテーブルだったり、おしゃれに生活を楽しむ人も増えている。そうすると、そういう中でいかに食卓をカラフルにするか、色が強すぎても料理と喧嘩してしまうから、脇役なんだけれども6:4くらいで、料理を引き立たせてなきゃいけない。

昔は、和食だったら「8~9割が食材で、器が1割2割」みたいな感じだったけれど、今はそうじゃなくなったんじゃないんじゃないか?と思っていて。要は、目で楽しめるということも必要。

料理をいかに美しくみせられるかに重点をおきながら、化学反応ででてくる色、また素材や焼き方から生まれる風合いを楽しんで作っています。

―あまり器が主張しすぎるのもよくないですしね。

髙井 有機的なカチッとした白の食器もきれいだけれど、食材って常に生き物で、自然なものでしょう?ナチュラル感っていうよりは、実際に食材を盛った時の“優しい”を感じられるような器がいいなと。

―飲食のお客さまから、色の提案依頼があったりするんですか?

髙井 そうですね。はじめはご要望をお伺いするけれど、もし任せるって言われたら、そういう提案はしますね。今までなら、よくある、赤系があって、イエロー系、グリーン系、ブルー系があって、初めてシリーズが成立していたところはあったと思うんです。

お店に合わせての提案で言うと、僕の中では、少し若い子向けのカフェとかだと、ネイビー・グレー・クリームはカフェとかで使われたらいいなと思うけれど、例えば、パープルとライトブルーネイビーの色調でもスタイリッシュにはまってくと思います。

バリエーションを作っておいて、好きな組み合わせにしても喧嘩しないように考え、お取引先さまに提案したりしていますよ。

コーヒーカップなんかは飲みやすいということもあり、東京の小さなカフェや、サザビーさんのアイスクリームの器、ロンハーマンさんのライスボールなどでも使っていただいています

―今後の課題やビジョンをお聞かせください。

髙井 とにかくやってみる。やってみないと分からない。川下から商社や問屋など遡って批判を受けるのは「窯元」。ブランディングしたら「ユーザーは歓迎、産地問屋は批判」。流通を簡素にして、お客様が本当に欲している商品をつくりたいと思っています。

―最後に今後の展望をお聞かせください。

髙井 本音を言えば、60歳で引退したいですね(笑)

でも、ありがたいことに、ものづくりに興味にある子たちが全国から、自ら応募してきてくれるんですよ。18人中5人もの退社があった大変な時に、「ここで働きたい」と応募してくる人が出てきた。だから、この子たちがしっかり食べていける、そして頑張っていきたいと思える会社にしていけるよう、私ももう少し頑張りたいですね。

自社ブランドを持ってる以上は責任重大ですし、お客さまあっての商売だから、職人の技術だけではなく、ブランド全体としていかに喜んでもらえるかが大切だと思うんです。

今後は、作山窯というチームとして進んでいけるように、まずどうありたいか、理想を思い描く。そしてそれをどうすれば実現できるかということを常に考え、お付き合いしてくださるお客さまと、より信頼関係を深め、しっかり繋がっていきたいですね。

 

インタビューを終えて

自分たちにしかできないものづくりに焦点を絞り、古きを守るためにも変化と進化を続けていく姿。

そんな髙井社長の強い意志が、今後も次世代へと受け継がれていくことでしょう。

自ら創造することで、新しい道を切り開き、そこから生まれてくるチャンスを成長へと繋げていくことの大切さと強さを、このインタビューを通じて感じることができました。

これからも『SAKUZAN』ブランドをたくさんの方に知ってもらい、同業種に限らず、様々な分野において影響力をもたらす存在となってくださることを願っています。

 

【会社情報】

会社名 有限会社 作山窯
http://www.sakuzan.co.jp/
所在地 〒509-5401 岐阜県土岐市駄知町1369-3
連絡先 TEL. 0572-59-8053 / FAX. 0572-59-8150
代表 髙井 宣泰
事業内容 陶磁器製造、販売 /業務用食器 / 一般小売商品 / 寄贈品